「相手のベットにコールしすぎている気もするし、逆にフォールドしすぎている気もする…」
「このベット、ブラフな気はするけど、確信が持てずにフォールドして後悔することが多い…」
ポーカーテーブルで、相手からのベットに直面したとき、あなたの判断基準は何ですか?「ハンドの強さ」「感覚」「読み」…もちろんそれらも重要ですが、もしあなたが長期的に勝ち続けたいと願うなら、それだけでは不十分です。
強いプレイヤーは、ディフェンスの場面で明確な「数学的根拠」を持っています。その根拠の一つが、今回ご紹介する「MDF(Minimum Defense Frequency:最低ディフェンス頻度)」です。
この記事を読めば、あなたはもう感覚だけに頼ったディフェンスから卒業できます。相手のブラフを戦略的に無力化し、搾取されないための「守りの鎧」を手に入れることができるでしょう。
MDF(最低ディフェンス頻度)とは?
MDF(最低ディフェンス頻度)とは、一言でいうと、「相手のブラフが決して利益的にならないようにするために、こちらが最低限ディフェンス(コールまたはレイズ)すべき頻度」を示す理論値です。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、考え方は非常にシンプルです。

もし私が、相手のベットに対して毎回のようにフォールドしていたらどうなるだろう?

(この人はよくフォールドするな…よし、どんな弱いハンドでもベットすればポットが取れるぞ!やりたい放題だ!)
この状況を防ぐのがMDFの役割です。あなたがMDFに基づいた頻度でディフェンスをすることで、相手はどんなハンド(エアー)でブラフをしても、長期的には利益を出すことができなくなります。言い換えれば、相手のブラフを「ブレークイーブン(損益ゼロ)」に追い込むことができるのです。
MDFの計算方法【α(アルファ)を覚えれば超簡単】
MDFの計算は、「α(アルファ)」という概念を理解すれば、驚くほど簡単です。
Step1:α(アルファ)を計算する
α(アルファ)とは、ベットする側(ブラフする側)の視点で、「そのブラフがブレークイーブンになるために、最低限必要な成功率」のことです。 これは、ベット額とポットサイズから以下の式で計算できます。
α = ベット額 / (ポットサイズ + ベット額)
例えば、ポットが100点、相手が50点(ハーフポット)をベットしてきた状況を考えてみましょう。
α = 50 / (100 + 50) = 50 / 150 = 0.333… ≒ 33.3%
この場合、相手のブラフは、33.3%以上の確率で成功すれば利益的になります。
Step2:MDFを計算する
MDFの計算は、αが分かれば引き算をするだけです。
MDF = 1 – α
先ほどの例(α = 33.3%)で計算すると、
MDF = 1 – 0.333 = 0.667 ≒ 66.7%
となり、あなたは最低でも66.7%の頻度でディフェンスすれば、相手のブラフを利益的なものにさせない、ということが分かります。
【早見表】ベットサイズごとのαとMDF
相手のベットサイズ | α (ブラフ成功に必要な確率) | MDF (最低ディフェンス頻度) |
---|---|---|
1/3ポット (約33%) | 33 / (100 + 33) ≒ 25% | 1 – 0.25 = 75% |
1/2ポット (50%) | 50 / (100 + 50) ≒ 33% | 1 – 0.33 = 67% |
2/3ポット (約67%) | 67 / (100 + 67) ≒ 40% | 1 – 0.40 = 60% |
ポットサイズ (100%) | 100 / (100 + 100) = 50% | 1 – 0.50 = 50% |
【超重要】MDFを盲信してはいけない!その限界と注意点
ここまでMDFの計算方法を学び、「これで機械的にディフェンスできる!」と思ったかもしれません。しかし、ここで絶対に知っておかなければならない、非常に重要な注意点があります。
MDFは、エクイティやレンジ構成を考慮していません。MDFを戦略全体のベースにしてしまうと、大きな不利益を被ることになります。
MDFは、あなたのハンドのエクイティが0%、つまり「絶対に勝てないゴミハンド」であることを前提としています。しかし、実際のポーカーでは、ほとんどのハンドがいくらかのエクイティ(勝率)を持っています。
さらに重要なのが、レンジとボードの相性です。
例えば、あなたがBBでUTGのレイズにコールし、フロップがA♦Q♠3♥だったとします。UTGが1/3ポットのCベットをしてきました。この場合、MDFは75%です。では、あなたはハンドの75%でディフェンスすべきでしょうか?
答えは「NO」です。
このボードは、UTGのタイトなレイズレンジ(AK, AQ, AA, KKなど)には非常に有利ですが、BBの広いコールレンジにはほとんど絡んでいません。あなたのレンジの70%近くは、このベットに対してフォールドせざるを得ない「ゴミハンド」です。このような状況で無理にMDFの数値を満たそうとコールをすると、ただチップを失うだけの自殺行為になってしまいます。GTO戦略においても、この状況でのBBのディフェンス頻度は42%程度であり、MDFの75%とは大きくかけ離れています。
では、MDFをどう使えばいいのか?
MDFは「この頻度でディフェンスしなければならない」というルールではありません。MDFは、あくまで「理論上の基準点」として使うのが正解です。
- 状況が有利な場合:あなたのレンジがボードと良く絡んでいて、相手のベットがブラフの可能性が高いと感じるなら、MDFよりも高い頻度でディフェンスすることを検討します。
- 状況が不利な場合:あなたのレンジがボードと全く絡んでおらず、相手のベットがバリューに偏っていると感じるなら、MDFを大きく下回る頻度でフォールドすることが正しいプレイになります。
この「MDF」という基準点を頭に入れつつ、そこに「自分のハンドのエクイティ」「レンジの相性」「相手のプレイスタイル」といった要素を加えて、最終的な判断を下すのです。これが、MDFの最も賢く、実践的な使い方です。
まとめ:MDFは「ルール」ではなく「羅針盤」
今回は、相手のブラフを無力化するための理論的武器「MDF」について解説しました。
- MDFとは?:相手のブラフを利益的にさせないための「最低ディフェンス頻度」。
- 計算方法は?:MDF = 1 – α。αは「ベット額 / (ポット + ベット額)」で計算できる。
- どう使う?:MDFは絶対的なルールではなく、あくまで「基準点」。
状況に応じてディフェンス頻度を調整する際の「羅針盤」として活用する。
MDFを学ぶことは、感覚的なディフェンスから脱却し、論理的なポーカープレイヤーになるための重要な一歩です。しかし、それに固執しすぎず、状況に応じて柔軟に戦略を調整することこそが、真の強さに繋がります。
さあ、次のハンドから相手のベットサイズを見て、「MDFはだいたい何%くらいかな?」と頭の中で計算する癖をつけてみましょう。それだけで、あなたのディフェンスは、より根拠のある、力強いものに変わっていくはずです。